中山靴店は最初からオーダーメイド靴をメインにしていたわけではありません。一般的な靴屋と同じく、問屋から仕入れた既製品の靴を棚に並べて販売していました。
「最初は、商品を並べたら、お客様が勝手に選んで買ってくれると思っていました。そんな甘いものではなく、全然売れませんでした。でも、解剖学を学ぶにつれて〝なぜこの靴が売れないのか〟という理由が見えるようになってきました。簡単に言えば、履き心地が悪い靴は売れないのです」
そこで中山社長は解剖学と靴作りの知識をベースに、自分で見て、履き心地の良い靴だけを仕入れるようにしました。デザインよりも、履き心地を優先したのです。
「売れるという自信がありました」
履き心地が良い靴だけを並べるようになってから、中山靴店の売り上げはどんどん伸びていきました。デザインが良い靴は、お客様の目を引き、手に取ってもらえます。しかし試着すると、買うとは言いません。とくに当時の中山靴店の顧客は、40〜50代が中心。身体の衰えを感じ始めて、自分に優しくなる世代です。若者のようにガマンをしてファッションを追求することはありません。
そうして死にものぐるいで働き、中山社長はわずか4年で全ての借金を返済して、念願のドイツ留学を果たしたのです。そして、ドイツの国家資格「ゲゼレ」を修得しました。
ゲゼレは医師の診断に従って足に障害がある人向けに特別な靴や中敷きを製作・調整するエキスパートであり、日本で取得している人は数えるほどしかいません。そのためメディアからの取材依頼がどんどん入り、報道される度に、オーダーメイドの予約も右肩上がりで増えていきました。
店の売上があがっていくのとは対象的に、この頃、中山社長のモチベーションはどんどん下がっていったそうです。仕事の目標を「借金の完済」と定めていたため、目標を達成してしまった後、何を目指して仕事をすればいいのかわからなくなってしまったのです。
そんな中山社長を見た経営者仲間のひとりが、ある勉強会に誘ってくれました。そこで中山社長は経営者が持つべき理念の大切さを学び「自分が最も仕事に生きがいを感じる瞬間は、どんなときか」と、考えました。
それが「お客様が喜んでくださること」だと分かり、次のような理念を掲げたのです。
我々は、関わる全ての人々と幸せを共有する。
我々は、足や靴でお困りの方のために存在している。
我々は、私利私欲を求めずお客様感動を追及し続ける。
これを毎朝、社員たちとともに読み上げるようにしました。すると店の売上がさらに伸び、募集もしていないのに入社希望者から連絡が入るようになりました。
DGPと出会ったのは、ちょうどその頃です。