中山靴店には、他店に見られないさまざまなサービスがあります。その中でもとくに注目されているのが、オーダーメイドインソールを「最短30分で完成させ、その場で渡す」というサービスです。
オーダーメイドインソールを提供している会社はいくつもありますが、たいてい測定した後は「1週間後にご自宅にお届け」となっています。しかし中山靴店の取り組みを見ていると、この「1週間後」という製作期間が、オーダーメイドインソールが普及しない一つの要因ではないかとすら思えます。
中山社長は「お届けは一週間後です」と「30分でお作りします」では、お客様の購買意欲が大きく変わる、といいます。
情報化が進んだ現在では、ネット通販で即日配達や翌日配達が当たり前になっています。商品を見て「ちょっと欲しいな」と思ったとき、在庫があってすぐに購入できるなら、そのままカートに入れて決済まで進むでしょう。しかし品切れ状態で、再入荷は1週間後と書かれていたら、多くのユーザは「まあいいか」と、そのページを閉じてしまうに違いありません。
「最短30分」が実現可能になった背景には、デジタル機器の導入があります。足型計測や足圧測定がほんの数分で完了するようになったこと、画像や数字を顧客に見せられるため説明が容易になったことなどが、製作時間の短縮を実現しました。
ただしデジタル化する前、すべてを手作業でやっていたときでも、中山靴店は1日でインソールを仕上げていました。その理由を尋ねると「1週間でも1日でも、仕上がりに大差はないから」と答えました。
インソール設計の判断のもとになるのは測定値であり、その数字が同じであればプロが下す判断には、大きな差がありません。それなら、30分や1日でできることを、わざわざ1週間に伸ばす必要がないというのです。
「30分で完成させてその場で手渡しすることを〝新しいサービス〟だとよく言われますが、新しいことをしようとして30分で作っているわけではありません。お客様に喜んでもらいたいと思ったから、30分で仕上げられるように環境を整えただけです。
お客様は痛みや違和感などから少しでも早く解放されたいと思っているでしょうし、私たちも少しでも早くお客様に楽になってほしいと考えています。それなら、短時間で仕上げるのは当然のことです」
中山社長は会社の理念を作ってから、何かを始めるときは必ず「理念に沿っているか」を確認するそうです。つまり、お客様の幸せと満足に繋がることであれば「やる」と決めて、その方法を模索していくのです。
デメリットに目を向ければ、できない理由がいくつも頭に浮かび、そこで足が止まってしまいます。しかし「やる」と決めれば、デメリットにとらわれている暇などありません。実現する方法を全力で探し、前例がなければ自分で生み出すしかありません。イノベーションを起こせる人間は、それができる人なのです。