健康グッズや介護用品などは義肢装具士の領域とも関わりがあるため、販売業を始めるうえで扱いやすいと思うかもしれません。
しかし、それは大きな間違いです。先ほど述べたように、商品が売れず、大量の不良在庫を抱えることになり倒産したケースがあります。
義肢や装具なら、患者さんにぴったり合うようにオーダーメイドで作ります。どのような工夫をして、どのような機能が患者さんの問題解決に役立つのか、作った本人が一番よく知っているため、セールストークを学ばなくてもアピールができます。患者さんも、それが自分のために作られた世界で一つだけのものであることが理解できるため、よほど不満がなければ購入してくれるでしょう。
しかし、既製品は違います。少しでも気に入らない点があれば、購入してくれません。他の店に行けば、満足できる商品があるかもしれないからです。その場合はセールストークを駆使して商品の魅力を効果的に伝え、お客様のちょっとした不満を払拭させて「欲しい」と思わせなければ、購入には結びつきません。
既製品の販売と、オーダーメイドの販売。
どちらが義肢装具士に向いているか、義肢装具士の能力を活用できるかは、明白です。
「しかし、オーダーメイドの商品を購入するのはごく一部の人間だから、顧客を集めるのが大変ではないか?」
確かに、大多数の人はどのような商品であれ、安価な既製品を購入しています。
だからといって、オーダーメイドの顧客が〝特別〟というわけではありません。
このような話があります。
ある女性は外反母趾による足の痛みで、普通に歩くのもつらい状態でした。医師からは「すぐに手術しなさい」と言われていましたが、本人は手術を受けることを迷っていました。
すると、友人が「腕のいい靴職人を紹介するから、オーダーメイドの靴を作ってみては?」と勧めてきました。
その女性は「痛みが少しでも減るのなら......」と、内心あまり期待していなかったのですが、オーダーメイドの靴を作り、それを使い始めると症状がみるみるうちに軽減し、毎日テニスを楽しむほど活発に動けるようになりました。
決して「オーダーメイドの靴が外反母趾を治した」わけではありません。靴は、医師による治療のサポートをしたに過ぎません。それでも女性は手術をせずに済んだことをたいへん喜び、その後もずっとオーダーメイドの靴を購入し、履き続けているそうです。
このような事例は、調べれば星の数ほど出てきます。
プロスポーツ選手の多くはオーダーメイドのインソールを使用していますし、外反母趾や膝関節症の患者、そのほか足の悩みを抱えているものの医師の処方が受けられない人たちの多くはオーダーメイドの靴やインソールを購入しています。
「予防医学」という言葉が以前よりも社会に浸透するにつれて、地元のスポーツクラブや学校の運動部に所属する子どもの親が、わが子のスポーツ障害を防ぐためにオーダーメイドのインソールを購入して使わせているというケースも、以前より増えてきたと感じています。
健康な体で毎日を過ごしたい、病気やケガをしたくないというのは万人の願いです。そして既製品よりもオーダーメイドのほうが効果があるのは周知の事実です。義肢装具士として活躍できるフィールドは、一般社会にも広がっているのです。