みなさんに質問です。
「優秀な義肢装具士の条件」とは、何だと思いますか?
豊富な経験と優れた技術を持っていること──と、思いますか?
残念ながら、それだけでは不正解です。
技術と経験は重要です。
義肢装具士が製作するのは、病気や事故などにより失われた手足の一部または全てを補う「義肢」、そして四肢や体幹の残存機能を一時的または永久的に代償する「装具」です。
しかし患者さん一人ひとりの身体の形や残存機能、生活スタイル、日常生活や仕事の中で感じている不自由さ、義肢や装具に対するニーズは千差万別です。
たとえば「右の下腿部が失われた状況」でも、それが若い女性の場合と、高齢者の場合では、義足を必要とする理由や求められる機能がまったく異なるでしょう。
若い女性なら、人に見られてもすぐには義肢とバレないような、リアルな形状を必要とするのではないでしょうか。高齢者なら、見た目よりも軽さや安定性、動きやすさなどを重視するはずです。
さらに、突発的な事故で足を失ったのか、病気の悪化が原因で、医師の説明に納得したうえで手術によって切断したのかでも、精神面で大きな違いがあります。
切断までに数カ月の猶予があれば、ある程度は心の準備ができます。日常生活がどのように変化するのか、どのような義肢があり何が自分に合うのか等、学習する機会もあるでしょう。しかし事故などで急に足を失ってしまったら、まずは「これから一生、自分は片足がない状態で生きていかなければいけない」という事実を受け入れる時間が必要になります。社会人なら、職業によっては転職を余儀なくされるでしょう。精神面はもちろん、経済面でも深刻な状況に追い込まれ、混乱し、大きな喪失感に苛まれます。
義肢や装具は日常生活動作の不自由さを改善するだけではなく、患者さんがリハビリに取り組み、社会へ復帰するさまざまな活動に前向きに取り組めるよう支援する役割も担っています。だからこそ患者さんの心身の状態をしっかりと把握し、一人ひとりに対する最適な形をオーダーメイドで作らなければなりません。
さらに、義肢や装具をつけて生活している人たちの身体は、歳月とともに変化します。子どもから大人になれば、サイズが大きくなったり、身体能力の向上などによって求められる機能が変わります。高齢者になれば、逆に筋力や体力が衰えていきます。それまで使用していた義肢や装具を使い続けることが難しくなるため、やはり本人の状態に合わせた調整が必要になります。
このような「一人ひとりに合うモノづくり」は、マニュアルがあっても容易にできることではありません。経験に裏打ちされた知識と技術が必要であり、そうした積み重ねのもとに義肢や装具を作ってきたのが、日本の義肢装具士です。細やかな心遣いと、微細な修正にこだわる高度な技術は、世界的にみても最高水準であるといえます。
話を戻しましょう。
「優秀な義肢装具士の条件」に、豊富な経験と優れた技術は必要です。
経験と技術を活かし、患者さんが喜んで使ってくれる義肢や装具を作っていれば、医師からの信頼が高まり、受注が安定するでしょう。
これまでは、この考え方で問題なく仕事ができていたと思います。
しかし、これからは違います。
もしあなたが学校で習ったとおり、採寸や採型をまだ手作業のみでやっているのなら、いますぐ「製作のデジタル化」を検討しなければいけません。